4.演目・芸態

 演目は、@一番庭(礼舞) A一番庭の狂い(扇合せ) B二番庭 C三番庭  D三番庭の狂い E刀剣舞  F刀剣舞の狂い G一人加護(一人いかもの) H二人加護(二人いかもの) I八人加護(八人いかもの)Jムギリ  K宙返り  Lカニむくり  M膳舞(平木まわし) Nカッカタ  などで、他にも O胴取 P梯子踊り  Q三島踊り  などがある。

@一番庭 8人踊

 「礼舞」とも称し、格調が高く、全体的に緩かな踊りで、全種目の基本踊りとされる。カッカタの招きで、庭入りした白面1人と青・赤・黒面の7人が右膝を立てて2列にしゃがむ。左手は刀の柄を逆手でつかみ、右手は扇を開いて右膝の上にそえる。寄せ(以下総ての踊りにある前奏)が終わると、引き念仏となり、立ち上がり、静かに扇をひるがえしながら、前に踏み出したり、後ろにもどったりして、次第に庭の中央に出て踊る。引き念仏などの念仏の詞章は後出するが、最後の「ニーシンダー」で三つ足を踏み、しゃがむ。次に、掃き念仏となるが、念仏は引き念仏と同じ。引き念仏が扇を内に払うように動かすのに対して、掃き念仏は扇を外に払うように動かす。続いて早念仏で、念仏が3度繰返される。最初の念仏で、白面が三つ足を踏んで前に出て半めぐりを繰返し、三つ足を踏んでもどる。次の念仏では、前列の2人が向き合い、一方が立ち、一方がしゃがみ、互いに扇をもたない手で組み合い、前後に移動しながら踊る。最後の念仏では、全員が同じ踊りを行う。次に、せんや念仏となる。大まかな扇と足の動きと、細かで軽い扇と足の動きとが交互に繰返される。念仏が終わると早拍子になり、それまで一緒に胴を打ちながら踊っていた胴取り(2人)が引っ込む。この早拍子に乗って踊るのを「デァゴ踏み」と言う。練習の時に使う口唱歌(くちしょんが)は、「デァゴデァゴ デァグズクデァン デァグズク デアンズク デァグズクデァン デァグズク デアグズク デァグズク ズッツノデァ」。次に、輪踊りとなり、両手を胸の前にもってきて、勢いよく左右に放したり、扇を畳んで肩にあてたりしながらめぐり、再び2列にもどって扇を開いて踊る。この時の口唱歌には、「デント デンガラ シャンシャンシャン デァクズク デンカタ シャンシャンシャン」などがあり、シャンシャンシャンで扇を前に出して軽くまわす。最後は、両腕を組んで左右に割かし、しゃがんで腕をとき、立てた左膝に左手を置き、地につけた右膝前に右手をそえ、頭を垂れて終わる。(約12分20秒)

 A一番庭の狂い

 「扇合せ」とも言い、扇を高く2人で合わせる優雅な踊り。「狂い」は、念仏や振込みなどが略され、また踊り手の数も8人の制約から解かれて、より勇壮潤達に伸々と踊られる踊りで、一番庭・三番庭・刀剣舞などに狂いがある。寄せは2人ずつ向き合い、しゃがんで待つ。右手の扇は開いて下向き。寄せが終わるとゆっくり首をふり両腕を動かしながら立って扇の舞となる。次に扇を高くかぎして向き合った2人が手をのべて扇を2度寄せ、入れ違いをして、再び扇を寄せる扇合せを3回線返す。次に扇を畳み、両手に持って横に、上下に振ってしゃがみ、扇を置く。次いで素手の踊りになる。両手で両膝をばっと打って、はずみをつけて立ち、扇合せと同様に向き合った2人が手をのべて掌を寄せる手合せと入れ違い、そして背中合せを繰返す。最後は腕組をし、左右に振って一踊りしてしゃがみ、腕をとき、左膝を立て左手をそえ、右膝を地につき、右手をそえて首を垂れて終わる。(約5分40秒)

 B二番庭 8人踊

 神社に参詣する際、最初に振り込む踊りとされる。ほぼ一番庭と同じであるが、一段と華麗であり、動作も激しい踊り。デント デンガラシャンシャンシャン(2・3度反復)の拍子で二列で振り込む独特な「出がかり」がある。かかげた右手の扇をくるくるまわしながら振り下ろし、次に左手を高くかかげて同様に振り下ろすことの繰返しで庭の中央に進む。引き念仏と掃き念仏とはなく、早念仏から始まり、せんや念仏の後、拍子がかわって扇の輪踊りを繰返し正面を向いて一番庭と同様にして終わる。狂い踊りはない。(約9分30秒)

 C三番庭 8人踊

 基本の型は一番庭・二番庭とほぼ同様であるが、より勇壮な踊り。一列で扇を開いてふりながら片足飛び(3歩)を繰返し、振り込む独得な「出がかり」がある。引き念仏・掃き念仏はなく、せんや念仏が唱えられ踊る。早念仏・せんや念仏に次いで扇の輪踊りを繰返すが、扇のふちを持ってまわすなど、扇の使い方に特徴がある。(約10分)

 D三番庭の狂い

 踊りも曲も変化に富み、軽快で活気に満ちた踊り。振り込みや早念仏・せんや念仏はなく、また踊り手も8人の制約から解かれる。扇の舞と素手の舞があり、2人で組んだり離れたりして勇壮に踊る。踊りの中に扇をたたみくるくるまわしながら左足でけんけんしたり、右手を下から上にすくい上げたり、2人で肩を組んで逆まわりをし手ばたきをするなどの所作がある。(約4分40秒)

 E刀剣舞 8人踊

 一番庭の扇の舞とは対照的な太刀踊りで、勇壮の中にも風格のある落着いた踊り。引き念仏で始まるが、念仏が始まると同時に刀を抜き、右手で柄、左手で刀身を持って、拝むように頭の前にかぎしたり刀を立てながら、ゆったりと踊りしゃがむ。掃き念仏も同様だが、しゃがんだ時に刀を草削こおさめる。次に早念仏・せんや念仏となり、扇を開いて踊る。その後調子が早くなり、扇を閉じ、刀を抜いて輪踊りなどの太刀踊りになる。輪踊りは、刀を振りまわしたり、肩にかついだり、両手で持って拝むように頭の前にかぎしたり、目の前に立てたりする型がある。最後に刀を持ったまましゃがみ、右手で柄を握り左手を刀の先にかけ、頭を垂れて終わる。(約12分30秒)

 F刀剣舞の狂い

 刀剣舞の風格ある踊りに、要所を躍動的な所作で締める踊り。踊り手は8人の制約から解かれる。振り込みの念仏は略される。初めから抜刀で2人ずつ向き合ってしゃがみ、寄せ終わると左手を刀身にかけ、両手で左右にゆっくり割かしながら立ち、頭の上にかかげ、目の前に立て、刀をまわす。次に1列になり、隣り同士の2人が交互に立ったり坐ったりしながら、激しく刀を交差さて、刀を腰にあてて回わり、再び交差させることを繰返す。次いで刀を置き、素手の舞となり、最後に腕組みをして一踊りし、しゃがんで腕をとき、静かに頭を垂れて終わる。
(約5分)

 G一人加護1人踊

 「加護」とは仏恩を受けることで、別名「一人偉者(いかもの)」と称される ように、仏恩を受けた勇者の喜びの踊りと言う。勇壮活発で、地を踏んで四方を鎮め固める反間(へんばい)の型があり、五穀豊穣・悪魔退散などの祈りを込めて舞われる。寄せが終わると、白面が走り出てまず跳躍し、左膝をつき右足を前に伸ばして、右手で開いた扇を目の高さにかざして見得をきる。左手は刀の柄をつかむ。次にエイと立って、扇をかざして足踏みなしながら、四方を固める。次に扇と金剛杵(杖)を投げ捨てて刀をすばやく抜き、刀の舞に移り、最後に素手の舞で終わる。四方を踏み固める反間は扇の舞・刀の舞・素手の舞のそれぞれにあり、目に見えない悪霊を追払う。なお、刀の舞は拍子がかわり、神楽拍子(太刀入りの笛)で行われる。数多い踊り種目の中で、一番庭・八人加護とともに剣舞を代表する踊りである。(約12分)

 H二人加護

 2人踊 「二人偉者」とも言い、2人の勇者による踊り。拍子も踊りも基本的な型は八人加護と同じだが、互いの刀を持って刀くぐりや刀またぎの後、刀を持ったまま背中合わせになり、相手の背中を軸にして回転する。(約7分)

 I八人加護 8人踊

 「八人偉者」とも称し、勇壮に踊り狂う武者の乱舞であろうと言われる踊り。
 寄せが終わると、右手の扇を開きをがら1人ずつ振り込み、二列になり、扇をとじて垂直に下げ、上半身を後にそる。次に扇を両手で持ってまわり、一列になって踊る。扇を腰にさし刀を半分抜いて輪踊りとなり、三つ足を踏んで抜き、左手は伸ばし上半身を後にそらせたり、刀を肩にかついだり、目の前に立てたりして踊る。次にこの刀を互いに持って、輪になったままの刀くぐりや刀またぎを行う。
次に刀の輪を解き、再び、刀を肩にかついだりして踊り、最後に刀を立て、その先に左手をそえ、しゃがんで終わる。また、カッカタが輪の中に入って踊ることもあるが、今はあまり見られない。踊りも曲も変化に富み、一段と踊る老の気合いが入り、見る者を楽しませる踊り。(約9分)

 Jムギリ 3人踊

 「モギリ」とも「八人くずし」とも言い、太刀を2本使い、振りかぎして四方を固める踊り。3人が中腰で、顔上に太刀を両手で持って構えて始まり、輪になっての太刀踊りと、刀を置いてからの素手で踊る舞いがある。刀は交差して正面に置き、踊りながら上を越す呪術的な所作(往復)がある。滑田鬼剣舞では1人または2人で踊り、包札の礼としてよく踊られると言い、岩崎では3人踊りで、「三人の御堂入り」と称し、神さまの遷座の際に演じ、一般にはやらないと言う。(約1分15秒)

 K宙返り 1人踊

 カニむくりや膳舞とともに曲芸的で、余興的要素を持つ踊り。抜身の太刀を1本から8本にまで増やしながら剣先をからだの方へ向けて持ち、宙返りしながら踊る。3本までは前に3恒】、向きをかえて再び3回宙返りをし、4本以上は前に宙返る。8本の場合は、7本を組んで両手で持ち、1本を口にくわえる。見る者の手に汗がわく、危険な妙技である。踊り手は素面で、刀を渡す補助役がつく。
(約10分)

 Lカニむくり 2人踊

 同じく曲芸的で余興的な要素の強い踊り。素面の2人がカニがむくれるように、連続的に、互いの背を軸に前後転したり、横に組んで風車のように側天したり、逆さに組んで車輪状に回転したりする。相当な熟練が必要で、見る者を楽しませてくれる。(約5分)

 M膳舞1人踊

 「ヘギまわし」とも言い、余興的な踊り。素面の踊り手が、2枚の膳や盆を草にのせ、落さないように左右に跳んだりからだや腕をひねったり、寝そべって横転したり、前後転したりして、膳をからだの下にくぐり通しながら踊る。勇壮な所作の多い剣舞の中で、ホッと息のつける、また妙技を充分に楽しめる踊りで、祝いの席などで好まれる。(約6分30秒)

 Nカッカタの踊り

 道化面(猿面)をかぶったカッカタの踊りで、金剛杖を2本持って、振ったり交差させたり腿の間を出し入れしたり、跳んだり走りまわったりしながら踊る。
時に狼雑な所作も加えながら踊るため、一時見られなくなったが、格調高く張りつめた緊張のある庭ものの合間に光る踊り。踊り始めに置いてある金剛杖に近づき、片足で飛ぶ所作(往復2度)がある。また、最後は金剛杖を置き、中腰で両手を上げながら「ホイーホイ」と呼ぶ。(約5分)

 O胴取

 「一番庭」「二番庭」「三番庭」の演目を踊る際に、念仏踊りの太鼓を打ち鳴らし踊る。晴れ着を着た少女が踊るのが一般的である。鬼剣舞の勇壮さに華やかさを添えてくれる。

 P梯子踊り

 昭和30年まであったが、梯子上から転落死亡した者が出て以来、中止されている。

 Q三島踊り

 この踊りは、田村麻呂と大武丸との戦いに立烏帽子の女が介入する踊りである。明治5年水沢の南都田から移入した踊りで、これは神楽の中にあったものを剣舞化したものと言われる。明治5年神仏混淆が太政官布告で禁止されて後中止されている。

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