5.儀式

 勇壮な踊りだけが注目を浴びるが、岩崎には伝承すべき儀礼が多い。盆の回向や秋祭りの門付けにともなって、「讃念仏」・「御座敷讃念仏」・「御仏壇拝礼念仏」・「神社拝礼念仏」や「回向文」が唱えられた。『念仏剣舞由来録』には、「何方にても何の前にても念仏白し候共、先右にあり光明遍照を暗い、太鼓を打て念仏を附すべし云々」とあり、「念仏作法」が詳しく記されている。その作法にしたがって、供養塔や仏前で念仏回向が行われてきた。また、正式の念仏供養式には斎場に四門が設置され、四門くぐりや弓取りの儀式が行われ、秘伝書の伝授式には口伝を主とした極秘の儀式が行われた。
 念仏供養式について、剣舞供養塔の場合を例にすると、先ず、通り曝しで、旗(庭元)・弓取り.(袴姿)・笛・太鼓・鉦・踊り手・供物・参列者の順に斎場に入り、供養塔の正面に、太鼓を前列中央にしてしゃがむ。
 次に、後生楽を打って念仏讃を2句唱える。

  参り釆てこれの供養塔見申せば
    金の梵字は光りかがやく 南無阿弥陀仏

  またかへしこれの供養塔拝しれば
    剣舞供養がまつられる 南無阿弥陀仏

 次に、弓取り・笛・踊り手が立上がり、通り囃しで、供養塔を取り囲んで建てられた四門をくぐり抜けながら、供養塔のまわりを1巡する。ここで塔前に上げられていた矢2本と弓を弓取りが採り、再び1巡する。
『念仏剣舞供養式伝』によれば、四門くぐりの順序は、「南二人テ 西二出 北二人テ 東二出 子二人テ 丑二出 辰二人テ 未二出」である。巡り終わると、笛・踊り手はもとの位置にもどり、弓取りは南から入って西に出て、未申(南西)向いて、
   ヨキコトラ ヒトツガホカニ ヒキヨセテ
     アクジセンリシホウニ フキハラエ
 と唱えて、矢をつがえて射る。次に、北から入って東に出て、丑寅(北東)に向いて、
   アラシフク コノヤマカゼモ サワリナク
     ムコウノホウマデ フキハラエケリ
 と唱えて、矢をつがえて射る。再び正面にもどり、弓を両手でかかげて2礼、置いて2礼して、榊を採って、もとの方で、「三帰依文」を唱えながら九字をきり、 次に「アブラウンケソワカ」を唱えながらホシをかき、エイの掛け声で点を打つ。
 榊を置き、拝礼して弓取りがもどると、全員で合掌して儀式が終わる。続いて一番庭を踊る。
 伝授式は、現師匠達が相伝された昭和52年3月の場合は、@仏壇の前で亡き先達の回向 A師匠による秘伝書読詣 H秘伝書『剣舞実鏡』・『念仏作法』の授 与 C師匠と弟子との水盃 D伝授を受けた者の誓約書奏上 E礼躍 の順で行われた。

 一番庭・二番庭・三番庭・刀剣舞には念仏が入る他は、踊りには歌詞・詞章は 入らない。また、庭入りの際には誉め言葉、念仏供養には回向文・呪文(アブラウンケソワカ)などが唱えられる。その詞章は「念仏剣舞伝」・「念仏作法」・「念仏供養式伝」などの秘伝書によって相伝するが、ここでは現在唱えられることの多いものを掲げておく。

 ○引き念佛(掃き念佛も同じ)
 「エーハア、ナーアムアーアーミイーダ(ホイ)ハア、ナーアムアーアー ミーイーダ ハアアーア、ハアナームアー アーミーイーダーブーツーイー、ナハムアーア、ニーシンダー

 ○早念佛
  「コノヘーヘ、 ハ−ナームーアーミイーダーアーブーツ ハーナームアー ミーイーダーブーツ ハーナムーアアーミーダーアーブーツ、ハーナムーア、 コノニーシンダー

 ○センヤ念佛
 「センヤーハーア、三国一のヤ、富士の山ヨシャカシャンシャカシャン、シャンシャカ、シャンシャンシャンシャンオイシャン ドンシャカドンシャカ、ドンドンドンヅヅ、ドゥヅヅ、ドンカタ シャンシャンシャンオイシャン ドンドンドンイヤ、ドーンナ、シャカシャンシヤカシャンシャンシヤカ シャンシャンシャンオイシャン ドンシャカドンシャカ、ドンドンドンヅヅ、ドゥヅヅ、ドンカタ、シャンシャンシャンオイシャン ドンドンドンイヤ シヤーノドン
  「センヤーハーア、登りて拝めばみな修業  

○讃念仏
  (橋)
  御山木は 水に浮かされ流れ来て
        今はぼだいの 橋となるなり
                南無阿弥陀仏
  (門)
  白さぎは 門のたる木に巣をかけて
        四方浄土と 守るしらさぎ
  (屋柄)
  参り釆て これの屋柄を見申せば
       棟は八ツ棟 こけらぶきかな
               南無阿弥陀仏
  (庭)
  参り来て これのお庭を見申せば
       四方四角な白砂の庭
               南無阿弥陀仏
  (馬屋)
  また返す これの馬屋を見申せば
       数の名馬を つなぎとめあり
               南無阿弥陀仏
  (石碑・塔婆)
  地伏には 地神坤神をお建てある
       拝みて通れ 我が連衆う
               南無阿弥陀仏

○神社拝礼念仏
  (鳥居)
  参り来て これの鳥居を見申せば
        ひだのたくみの 建てた門なり
                南無阿弥陀仏
  (御堂)
  参り釆て これの御堂を拝すれば
        諸願成就と 建てた御堂なり
                南無阿弥陀仏
 

○御座敷讃念仏
  (座敷)
  敷き延べし びんごこうらいのお座敷に
       吾等を招く 有難きかな
               南無阿弥陀仏
  お座敷は びんご表のその上に
        われらにすわれと 有難きかく
               南無阿弥陀仏
  (お酌)
  十七は 白金銚子に手をかけて
        お酌廻れば 御座かがやく
               南無阿弥陀仏
  (お酒)
  連々は 何とたべたやこの御酒を
                 南無阿弥陀仏

       これぞまことの 加賀の菊酒
               南無阿弥陀仏
  (御飯)
  また返す 何とたべたやこの米を
       これぞまことの 尾張米かな
               南無阿弥陀仏
  (包み金)
  しろがねは 蒔絵の台に包み金
      われらにくださる 有難きかな
               南無阿弥陀仏
  (帰りの礼)
  数知れぬ 心尽しを身に受けて
       楽しみがてら 帰るふるさと
               南無阿弥陀仏
  会者定離 別れ別れは惜しけれど
       またの会う日を 楽しみとして
               南無阿弥陀仏
 ○御仏壇拝礼念仏
  (仏壇)
  参り釆て これの仏壇拝すれば
       花の浄土の極楽の園
               南無阿弥陀仏
  参り釆て これの仏壇拝すれば
       阿弥陀如来を おかけある
               南無阿弥陀仏
  (燈明)
   燈明は 満堂隅なくかがやけり
        弥陀諸願の 芯をともして
                南無阿弥陀仏
   また返す 燈明の光は細けれど
      極楽浄土へ 満とががやく
               南無阿弥陀仏
  この庭で 鐘と太鼓の音がすれば
       死者の盲者も 浮かびくる
               南無阿弥陀仏
 ○回向念仏
    光明遍照十方世界
    念仏衆生摂取不捨
    至心帰命阿弥陀
    阿字十方三千仏
    弥字一切諸菩薩
    陀字八方諸聖教
    皆是 阿弥陀
    願以此功徳
    平等施一切
    同発菩提心
    往生安楽国
   
  (以上、小田嶋昌悦氏口誦)

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